1-2 「新貴族」選出法の震撼と「数学」認識

我国では“偉大なフランス”の情報は少ない。旅行記など多々あるが高等教育システム等の実体を詳述した書物は殆ど見当たらない。誤解を恐れずにいえば、フランスで最優秀な学生は、例えばパリ大学ソルボンヌなどではなく、エリート校である超級グラン・ゼコールへ行く。日本でこうした事実が余り知られていないのは、“超級”に関係した日本人が僅かか、筆記試験無しの特別枠入学のためなのであろう。今回パリで三十年以上フランスに生活し、子息をグラン・ゼコールに入学させた方の体験談をお聞きした。 それによれば小学校一年から留年、飛び級でにかけられる。そして名門といわれるリセ(高校)ルイ・ル・グランやアンリ・キャトル等に子供を入れることが最初の超難関。因みにフランス植民地だったアフリカのマリやチュニジア等にも高級リセはある。そこで最優秀な学生は“X”や“ENS”や“ENA”を受験・合格し、卒業・帰国し国主や大統領などになる。 さて遊び盛りの子供にとってフランスの長い休暇制度も勉学集中には逆風の模様で、親の忍耐や子供への統治も問われる。目出度く名門リセ入学後は数学を中心に振い落しの連続。揉みに揉まれ、大学入学資格を得るための統一国家試験バカロレア(baccalaureat)にほぼ満点合格すると、校長が大学ではなく「プレパへ行けるかどうか」親に打診なく学生の行先を決める。プレパ(preparatories)とは“X”や“ENS”、高級経営大学院である“HEC”(アッシュウセー)など超級グラン・ゼコールへ挑戦する為の、リセの中に用意されている大学レベルの二年間の「準備学級」。このプレパの入学から真の受験競争が始まる。理系は無論、文系でさえ数学が最重要であり、筆舌に尽しがたい知力が要求される。その様子は「二年間は太陽を見る時間がない」と比喩される程。ここでグラン・ゼコール受験が困難と判断された学生はパリの大学や、他の職業へ移る者も多数出る。 一方合格の可能性があると判断された学生はコンクールと呼ばれるグラン・ゼコールの入試テストへ。「数学」でも「物理」でも一項目四時間の論文試験が午前、午後二項目。それが延々二週間続く。従って飛び抜けた学力の上、体力、気力がないと勝ち残れない。“HEC”の「社会科」問題など、全世界の戦後五十年史の“全部”を知らないと合格はない。それは「蒸留水の原理」で足切りしていく現代版「科挙」のような過酷なテスト。第一次論文筆記テストが終了すれば、コンピュータのネット上で全員の氏名と得点が公表。この自己との格闘のような試練を通し、思考力、表現力、使命感、倫理観――次代を担当するのだ、といった国家への自覚が厭でも目覚めていく。筆記試験を通過した合格者には、今度は同等以上の口頭試問。五名以上の審査官からあらゆる質問攻めにあい、重要視される内申書も過大、過小評価は殆ど表出するだけでなく、人間としての沈才の程度と全人格が露呈する。そして最終合格者は「駱駝が針の穴を通る」確率で選ばれる、とのことであった。仮に若干のオーバートークがあったにせよ実態を推察するに十分であった。


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