2-2 熱海・多賀小学校の光風とシグマ線図

 

教育場とは「生徒の心に火を点ける」所である。如何に個々の子供達に適した火を点けられるか?――昭和七年発刊の橋本左内言行録を中心に左内の少年期の振る舞いや「啓発録」の要点に触れた。「啓発録」はつまるところ“人格のあるべき姿”を世界に例のない弱冠十五歳でほぼ完璧に述べた著作といえよう。成績で人格が決まる訳はなく、人格で人間が決まるのである。これを蝴凾ン砕き「人間としてのぶ厚さ、深さ、弾力さ、品性など」の人格の高さ、大きさを要約したΣ[シグマ]線図(左頁)について説明した。十年程前から企業幹部研修会や大学で話し、簡明で印象的との声が多いため試行したのである。

 私的な概念であるが、人格は「天性」、「知性」、「技能」、「習性」の四線分で囲まれた面積で表現できるであろう。第一に重要なのは人間の本質たる天性。心の明るさ、情操、人を人として愛する等の徳性・徳義たる「天性」は実は他力、自我が目覚める三歳位までに特に母親から授かることが、米国ミシガン大学など幼児心理学の研究で明らかとなっている。天性のみ自力に依存しないのである。良い母親に恵まれた子供の天性は横軸に伸びる(図①)。赤子に母乳を与える際、全身で慈しみ乳を与え、満腹し浅眠から熟睡に到る過程で子守唄や絵本を読んで聞かす母親は多い。しかし母乳を与えつつも芸能テレビを見ている母親もいる。胸の形が悪くなるとし哺乳瓶をえさせる母親、車に放置しパチンコに興ずる母親もいる。こうした母親の姿に依存し「天性」は変化する。DNAに無関係に、食事も満足に与えない母親から心の明るさ、清らかさなど備わる筈はなく、極端な場合「天性」が負となり、シグマ面積で合計がマイナス(図②)になれば、所謂、人格欠損となる。
 次の「知性」は頭脳的な判断力や思考力。これがあるから人間は動物より抜きん出ている。しかし少々未発達でも人間の本質たる人格にはそれほど影響しない。何処の大学を出たからといってそれ程問題でない。「技能」も同様。サッカーが上手い、ピアノが上手、英会話が流暢――といった「技能」は無いより有った方が良い。しかしDNA依存性があるといわれる「知性」や「技能」は、Σの線分の高さ方向にある角度(θ)を以って関与し、「天性」、「習性」ほどには人格に効かない。一例だがスポーツ選手で時々間違いを起こす人がいる。先日もオリンピックで金メダルを多数取得した米国水泳選手が大麻を吸い問題を起こした。「技能」は金メダル。Σの技能線は著しく長いけれど、脳ミソまで筋肉となったような人格は(図③)の如くなるであろう。無論「習性」でリカバリーできる。
 以上より自力で人格を高めるには「習性」が最も大事である。習性とは毎日の習慣で作られていく感性や行動様式であり、人格を大きく決定づける。少し乱暴な例を挙げてみる。「啓発録」の“去稚心”ではないが、子供ならいざ知らず、大人になっても通勤電車等で毎日漫画を見ている人、毎日が週刊誌の人、毎日が総合・経済新聞の人、毎日が英字新聞の人、毎日が密度濃い書物を読まないと日々充実・律動しない人もいる。漫画を読んで無論悪い訳でない。しかし毎日が漫画レベルで事足りる生活だろう。「啓発録」の“立志”とは程遠い日々となる。ニュートンも朱鎔基も幼少期に母と離別・死別しているので「天性」が幾分短いようであるが、持ち前の「知性」の上に「習性」を日々蓄積し偉人となったのであろう(図④)。「人格」のように本当に大事なものは目に見えない――といった内容を咀嚼したつもりでいる。限界五十分が八十分。子供達は集中して聞いてくれたようであった。


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