7-2東工大・清華大合同プログラムの先

 昨年冬、この東工大・清華大合同プログラムに赤池教授の要請でゲストとして呼ばれ、すずかけ台キャンパス(横浜市緑区)で英語講演した。修士・博士課程の学生に加え、両大学の教授の方々も出席。ところで国際会議や欧米中国など海外の大学講義後いつも感じるのだが、中国側からは矜持高い教授連や学生から幾つか質問があった。「学問」とは“学んでから問う”という事でもあり、先ず受け容れ、消化しきれないものを聞けばよい。  しかし日本側の質問はない。実力がないのではなく「目立ちたくない」とするエートスが支配的なのだ。少し乱暴にいえば、中国や欧米では、「自分が他人と違うこと」を強調しなければ生きられない国。かたや「お上の下」で生きる、といった価値観が支配的な国民。海外に「お上」はおらず、これからの日中関係や海外に伍してコミュニケーションをとるには、超えていかねばならないハードルの一つであろう。子供の時から我国の教育の本質は「目立っちゃダメ」「競争しちゃダメ」……といった鎖国のDNAのような価値観を植え付けてきた。しかし学問でも、科学でも、技術でも、競争することで磨かれ、磨かれることで自分が高まる。自己が高まれば生き生きしてくる。こうした学術以外の視座からも本件の交流プログラムは国際化を発展させる一つの実験場となっているように見えた。 *  両校の合同プログラムのようなコンセプトの学術交流は、最近では医学部において、慶応義塾大学の安井正人教授らを中心に、スウェーデンのカロリンスカ医科大学、米国のジョンズホプキンズ大学医学部との日米欧を代表する医学部による鼎立学術交流の定在化が構想されている。東工大・清華大は理工系を基軸としたデュアル・ディグリー、慶応大・カロリンスカ大・ジョンズホプキンズ大は医学系を基軸とし、競争しながら協業する学術プログラムで日本の活性化を目指している。また大阪市大の藤田整名誉教授らによる大学の単位取得、卒業試験のあるべき姿への変革提言など、大学制度自体を抜本的に改革する指摘も真摯で非常に重い。  我国では教育審議会など多くの会議がなされてきた。にも拘わらず子供の可能性を引き出す機会平等ではない、いわゆる結果平等の金太郎飴教育の既成概念は一向に改まらない。「ああしちゃダメ」「こうしちゃダメ」との教育をしておいて、何故「競争に弱いのか」「勝てないのか」といった喜劇的な議論とアド・ホック(その場かぎり)の誌上談兵が溢れている。  東工大・清華大合同プログラムが教育システム改革のための一つの実験とすれば、失敗も当然あるかもしれない。しかし失敗に対する非難を恐れず責任者に相当の権限を与え、生き生きとした人材を輩出する既成事実を作ってしまい、その既成事実が過去の既成概念を打ち破っていく―。こうした方法でしか、この国は変れないのかもしれない。上等なプログラムが「鎖国のDNA」を変化させることに期待している。

 

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