1-1「新貴族」選出法の震撼と「数学」認識

ロマン・ロランの長編作品『ジャン・クリストフ』。クリストフの恋人の弟であるオリヴィエ青年が、生涯高い生活を保証される名門エコール・ノルマルに受験する個所がある。一度は受験に失敗、最後の機会の二度目で合格し卒倒する場面。エコール・ノルマル(フランスで通称“ENS”)に学んだ作家ロランが体験を作品に織り込んだのであろう。 また難解な抽象代数学「群論」の創始者エヴァリスト・ガロアは生前、“数学の王様”F・ガウスにさえ理解されない程の高い数学の天才を示した。ガロアも名門リセ(高校)、ルイ・ル・グランに学び、飛び級で最優秀なクラス、数学特別学級(マッチ・スップ)に進級。伝説によれば、父の自殺やエコール・ポリテクニク(“X”)の口頭試問において、彼にとって数学の愚問を発する審査官に立腹し、黒板消しを投付けたことで受験に失敗。その後“ENS”に合格。しかし不幸に不幸が重なり二十歳、革命運動に身を投じ決闘で死ぬのは周知の通りである。 前号の“X”が理工系で産業界、経済界、政界のエリートになるのに対し、“ENS”は高等師範学校として哲学界、研究教育界、数学界に別格的な名声を博している。出身者に形而上学的な唯心論的実証主義の哲学者A・ベルグソン、無神論的実存主義者J・P・サルトルやS・ボーヴォワール、エリートなのに肉体労働を志願し、フランスの貧しい同胞の苦しみを共有するため断食して絶命した哲学者S・ヴェイユ、細菌学者L・パスツール、「フーリエ級数」のJ・フーリエ、「ルベーグ積分」で著名なH・L・ルベーグ、位相幾何学のA・ポアンカレなど。現代ではG・ポンピドウ大統領など多数の政界要人のほか、毎年表彰されるノーベル賞より難関といわれる、四年に一度の数学フィールズ賞において、“ENS”は世界で断トツの受賞実績を誇る超級グラン・ゼコール(大学校)なのである。


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